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劇場版 BLEACH
~MEMORIES OF NOBODY~
ゲキジョウバン ブリーチ

著者:久保 帯人
著者:松原 真琴
■ISBNコード: 4-08-703174-8
■判型/総ページ数: 新書コミックス判ソフト/224ページ+口絵4ページ
■発売年月日: 2006年12月18日
 尸魂界・通信技術研究所。
 その日、数吊の隠密機動が、尸魂界と現世の狭間に発生した新生空間の調査へ向かった。
 しかし、数分後。
 救援を求める通信を最後に、彼らからの連絡は、途絶えた。

 ――この後、事態は急転する。



 空座町・馬芝自然公園。
 色の濃い青空を、細い雲が流れていく。乾いた風が木々を揺らし、鮮やかに色づいた葉を落とす。降り積もった 落ち葉を踏みしめ、遊歩道を歩く、人、人、人……。
 秋である。
 行楽日和の、秋の午後である。
 人々が楽しげに行き交うその道の脇、イチョウの木立を縫うようにして、一人の少女が走っていた。少女の胸からは 切れた鎖が垂れており、踏み出すたびに、チャリチャリと音を立てる。
「こ……来ないで………っ!《
 走りながら、少女は涙声で訴える。時折背後を振り向きながら、恐怖にすくむ足をどうにか動かし、走り続ける。 少女は助けを求めるように歩道を行く人々を見るが、足を止める者はいなかった。彼らには、少女の姿が見えて いないのだ。
 彼女は、先日この公園のそばで亡くなった、”整”と呼ばれる魂魄……つまりは、幽霊なのである。

 何度も転びそうになりながら走る。
 息が切れ、みるみるスピードが落ちていく。
「きゃあっ!《
 ついに足がもつれ、転んだ。そのままゴロンと落ち葉の上を一回転し、イチョウの幹に背中をぶつけて、止まる。 黄色い葉が、はらはらと少女の上に降ってくる。
「あ……ああ…………!《
 少女が見上げる先、正面のイチョウに、何かが降り立った。
 その衝撃で幹が真っ二つに裂け、一方は本立の中へ、もう一方は遊歩道へ倒れていく。
「た……倒れるぞ!!《
 道の脇で風景画を描いていた学生が叫んだ。
 その声と、木が裂けるメキメキという音に、悲鳴を上げて逃げる人々と、何か起きたのかと集まってくる野次馬が 混ざり合い、周囲は一瞬にして大混乱に陥った。
 その人込みをすり抜け、二人の人影が、木立の奥へ駆けていく。
「出るぞ!《
 そう言って、携帯電話によく似た尸魂界の通信機器・伝令神機のディスプレイから顔を上げたのは、護廷十三隊 ・十三番隊所属の死神、朽木ルキアである。艶のある黒髪をなびかせ、前を走るオレンジ色の頭を見上げた。
「おう!《
 振り向かずに答えたのは、死神代行の高校生、黒崎一護だ。走りながら、ズボンの尻ポケットから死神代行戦闘 許可証を取り出す。
「あっ! おい、一護……《
 ルキアが何か言いかけた時、一護はすでに代行証を胸に押し当て、死神化していた。
「先、行ってるぜ!《
 そう言って駆けていく死神の一護。
 一方、魂魄が抜けた肉体は、脱力し、ゆらりとルキアのほうに倒れていく。もちろん、彼女はそれを受け止める ことなく、ひょいっ、と避けた。
「莫迦者め……!《
 ルキアは、勢いよく地面に倒れたせいで落ち葉まみれになった一護の体を見下ろして、つぶやく。顔を上げ、 ジャケットの内ポケットからウサギのマスコットが付いている義魂丸ケースを取り出し、その丸薬を飲んで死神化した。
 ふぅ、と息を吐いて振り向くと、ひざまずいていたルキアの義骸が、スッと顔を上げた。
「ルキア様、ご命令を《
「うむ、どこか邪魔にならぬところで待っておれ《
 その言葉を聞き、義魂丸・チャッピーは、二カツと笑って立ち上がった。
「了解ですピョン!《
 ピースサインを作った両手をバンッと突き出し、指をチョキチョキ動かして見せる。ルキアは軽くうなずき、踵を返して 走り出した。
 チャッピーは、ぶんぶん手を振ってルキアを見送った後、一護の体が横たわっている方向へ元気よく駆け出して、 当然のようにみぞおちを踏み、軽やかな足取りでその場を去った。

 ルキアが駆けつけた時には、一護はもう戦闘を始めていた。見上げると、密集している黄色い葉の隙間から、斬魄刀・ 新月を振るう一護と、彼に追われ、逃げるものの姿が見えた。
 ニメートルを優に超える巨体は、人と獣を掛け合わせたような形をしている。その顔を覆う白い仮面と、胸にぽっかり と空いた、穴。
 これは、”虚”と呼ばれる魂魄……死者・生者の別なく魂を喰らう、いわゆる悪霊である。
 ルキアは、イチョウの木の下で震えていた整の少女を安全な場所まで連れて行き、スラリと斬魄刀を技いて、戦いの 場へ駆け戻った。上空で一護と虚がぶつかるたび、地面にドッと落ち葉が降る。
「何を遊んでおるのだ、一護! せっかくの黄葉をすべて散らすつもりか!?《
 ルキアは、黄色い雨の中、上を見て叫んだ。
「うるせー!《
 そう言い返して、一護は再び枝を蹴る。
 逃げる虚の姿が、木の葉に紛れ、見えなくなる。
「くそっ……! 葉っぱが邪魔クセー!!《
 顔の前に左腕をかざし、なるべく葉の少ないところを選んで跳んだ。何度か枝を渡り、ようやく虚に追いつく。
「ハアッ!!《
 一護は真横に新月を振り抜いた。
 が、虚はそれを避け、地面へ逃げていく。
「ルキア、行ったぞ!《
「おう!《
 ルキアは、虚が着地した瞬間、足の甲に深々と斬魄刀を突き立てた。即座に飛び退き、叫ぶ。
「一護!《
 地面に縫い止められた虚は、貫かれた足の痛みに、大きくのけぞった。
 その目に、新月を振り上げた一護の姿が映る。

 真っ直ぐに、落ちてくる。
 まばゆいほどの黄色で覆われていた視界に、急速に死覇装の黒が広がっていく。
(コレガ……死神…………!)
 二度目の死を悟った時、虚の意識は、絶えた。
 両断された虚の体は砂のように崩れ、サラサラと風に乗り、消えていった。
「一護、こっちだ!《
 少し離れた場所からルキアに呼ばれ、一護は体に付いた木の葉を払い落としながら、そちらへ向かった。
「どうやら今の奴は、この子を狙ったようだ《
 幼い少女が、ルキアの後ろに隠れるようにして、上安な表情で一護を見上げている。一護は肩に担いでいた 新月を下ろし、地面に片膝を付いて目線を少女に合わせた。
「よう《
 一護がそう声を掛けると、少女はルキアの腕にしがみつき、顔を隠してしまった。ルキアは少し笑って、言う。
「大丈夫。怖いのは目つきだけだ《
「うるせー《
 一護は下ろしていた新月を上げ、柄の先端部分を少女に向けた。


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