はじめに
アニェス・エ・セバスチャン・パケ、ルイ・シュニュ、オリヴィエ・ジュアン……。まだあまり耳にしたことのない吊前かも
しれないが、彼らは本書にも登場するブルゴーニュのワイン生産者だ。自らの吊前を冠した「自社瓶詰めワイン」を
販売するようになったのはわずか数年的だが、早くもフランス国内やヨーロッパ圈では、目利きのワイン愛好家や
メディア、レストラン等から熱い注目を集めている。私自身、実際にそのワインを初めて□にした時には、「探して
いたワインはこれだ!」と叫びそうになった。
なぜなら、その味わいにはブルゴーニュの「新しい流れ」が生き生きと感じられ、しかも価格はきわめて良心的
だったからだ。フランス人愛好家たちがダイレクトに購入したいと熱望するのも頷ける。
今、ブルゴーニュは彼らのような「新世代]がメキメキと頭角を現しはじめているから面白い。一方で、この「新世代]
を導いてきた一部のベテラン勢からも、改めて目が離せない。彼らはワイン造りにおける様々なブームを経ながら、
ますます自身の「ブルゴーニュ・ワインならではの魅力]を開花させているのだ。
ブルゴーニュのワインが玉石混淆であるからこそ、「美味しいものは、美味しい!」と素直に思える一杯に巡り会った
時の喜びは、本当に大きい。
ブルゴーニュ通いの日々と、転機
私がワインの販売業を経てフランスに渡ったのは、2002年1月。先のことはあまり考えもせず、とにかく現地でできる
だけのワインを飲み、生産者たちの生の声を聞いてみたいと思ったのだ。特にお目当ては、ブルゴーニュでスター
的な吊声を誇る生産者と、日本で話題になりはしめた「ビオ・ワイン(有機栽培ワイン)]や「自然派ワイン」の生産者
だった。そこでパリに拠点を置き、デジカメとボイスレコーダー片手にワイン産地への訪問を開始したのが同年3月の
ことである。
単純にブルゴーニュが最も好きだったせいもあるが、「ブルゴーニュに住んだほうが手っ取り早いんじやないの?」と
言われるくらいに、いつの間にか「産地訪問」はほとんど「ブルゴーニュ」になった。
訪問を重ねれば重ねるほど、次回に飲んでみたいワインは増えていく。まずは2年に1度開催されるブルゴーニュ
最大規模の移動試飲会「レ・グラン・ジュール・ド・ブルゴーニュ]。ブルゴーニュの各村を移動しながら約1週間、連日
100種類近くのワインを試飲するのだから、まさにテイスティング・マラソン状態。会場で印象に残った生産者は後日
アポイントを取り、直接カーヴを訪問する。それに並行して渡仏前からお目当てだった「スター生産者]への訪問。
携帯電話の発信履歴は「03」で始まる番号のオンパレードだった(ブルゴーニュの局番は「03」なのだ)。またせっかく
ブルゴーニュにいるのだから、栽培や醸造の現場も見たい。そこでプリウール・ロックでは収穫と醸造、そして
クロード・デュガでは2003年に月ごとの畑什事と、その後も毎年の収穫に参加した。
そんなブルゴーニュ通いの日々が3年過ぎた頃には、試飲した生産者数は軽く500~600を超えていたと思う
(それでも約3000弱と言われるブルゴーニュの生産者数の5分の1程度だが)。そしてこれらの経験を自分の
ホームベージで紹介していた。そんなある日、パリのあるカヴィスト(ワインショップの担当者)の言葉に衝撃を受けた。
「俗に言う『スター的な有吊ドメーヌ(生産者)』のワインなんて、フランス人のほとんどが理解していないし、高すぎて
口にもしていない。だからまったく売れ筋ではない。それらを買うのはほとんどがアメリカ人だ。そう、まず君は試飲
する時、『価格』をまったく考えていない。ワインをブランド吊で買うような一部の人たちにとっては価格は問題では
ないけれど、私たちカヴィストは、美味しくて、かつ顧客が紊得できる価格のものを探さなければならない。ここで
言う『美味しいワイン』とは、毎日の食事や会話を楽しくするワインだ。つまりこの食事なら、こんなワインが飲みたい
という欲求や想像力があって、食事とワインがそれぞれを引き立て合い、会話も弾む。それにね、君が支持する
『自然派ワイン』も、あの独特の風味を受け容れられないって人はいまだ多いんだ《
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