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小学星のプリンセス☆
ショウガクセイノプリンセス

著者:餅月 望
イラスト:bb
■ISBNコード: 978-4-08-630434-4
■判型/総ページ数: 文庫判/288ページ+口絵8ページ
■発売年月日: 2008年6月25日
プロローグ

 ――月に手が届きそうだね……。
 彼女と笑いあったあの日に、今夜はそっくりだと思った。大きくて、まん丸の月が僕たちを見下ろす中、二人で手を繋ぎながら帰ったあの夜に。夢のように楽しかった、あの夜に。
 ――私が生まれた星も見えるかもしれないね。
 真顔で彼女が冗談を言った、あの夜に負けないぐらいに、今夜の星空は綺麗だった。
 夜空の黒は吸い込まれそうなほどに澄み渡り、満天に散らばる星々は、あの日と同じように楽しげに輝いているのに。
 なぜだろう、それを見つめる僕は泣き出しそうになっていた。こんなにも気持ちいい夜なのに、宝石を散りばめたみたいに綺麗な、綺麗な星空なのに。
 今日はどうして、こんなに悲しいんだろう?
「来て、くれたんだ……、貢」
 夜空に負けない漆黒の瞳に大粒の涙を浮かべて、目の前の少女ルリスは寂しげに微笑んだ。
 雪のように白かった頬は今では桜色に染まり、ふっくら柔らかそうな唇は小さく震えていた。
 蒼白い月明かりの下に見る彼女は、ただただ純粋に綺麗だった。この世の物とも思えない、その美しさに遂に僕は納得してしまった。
 もう、お別れなんだなぁ、ってわかってしまった。だって、教科書にのってたかぐや姫の話だってそうだったじゃないか。あまりに可憐な姫君は月へと帰ってしまう。それは決められていたことで、変えることなんか誰にもできなくって。
 ルリスも、きっと一緒なんだ。こんなに可愛らしい彼女はきっと、どこかの国のお姫様で、使者に連れられて行ってしまうんだ。
 泣きそうだった。本当に、すぐにでも泣き出しそうだった。
 春には一緒に卒業して、中学だって一緒に通えると思ってたのに、どうしてだよ、って叫びたかった。
 だけどルリスが我慢してたから。男の僕が先に泣くわけにはいかないって。意地になって。
「当たり前、だよ……。てかさ、先に言っといてくれないと、こんなに急に言われたらお別れのプレゼント、用意できないじゃないか」
 下唇をかみ締めて無理やり頬を吊り上げて。笑えていたかどうかはわからないけど。引きつったものすごい顔になっているかもしれないけど。
 絶対に泣くもんか! って僕はなんとか笑みを浮かべる。
「ほら、これ探してて遅くなったんだ」
 何もしないでいたら、すぐに涙が溢れてしまいそうだったから、僕は半ズボンのポケットの中、ハンカチに包んで大切にしまい込んであった物を彼女に差し出した。
「……え? これ、は……」
 走ってきたから少しだけ萎れてしまっていたけれど。それは四葉のクローバーだった。
 幸運のお守りは、なんだか見ているだけで楽しくなってくるから、いつだって、にこにこ輝いてる彼女にぴったりだと思った。
 だから昨日、小学校が終わってからずっと探していたのだ。今日だって夕方遅くなるまで、ずっとずっと、探してて……。
 それで彼女に会いに来るのが遅くなってしまったのだ。
「幸運のお守り……。結構、苦労したんだよ?」
 彼女は僕の手元と顔とを交互に見比べて、いいの? と視線で問いかけてくる。
 僕は大きく一度、頷いて、
「あげるよ」
 無理やりに彼女の小さな手に押し込んだ。
 彼女はまだ、きょとん、と瞳を見開いていたけど、やがて頭中に笑顔を花咲かせた。
「ありがと、貢。すごく……、私、すごく嬉しい!」
 大切にするよ……。そう言って彼女はクローバーを本当に、ものすごく大切そうに胸に抱いた。両手で愛しげに持ち、何度も何度もその葉を見つめる。
 それから、ふいに思い出したかのように、
「貢、お返し……」
 ポケットの中から小さなキーホルダーを取り出して、僕に渡してきた。
 何かの動物の毛だろうか? 純白の毛を幾重にも編みこんだ飾りには二本の花が結び合わされた、可愛らしい絵が描かれていた。
「お守りだから。それを見て私のこと、思い出して。絶対に忘れないで!」
「うん、忘れないよ。絶対。約束だ」
 僕は彼女のお守りを握り締め、精一杯の声で言った。寂しさも、泣き出しそうな気持ちも全部押さえつけて。ただ、笑顔だけを浮かべて。
 だって笑顔で別れたかったから。
「約束だ。絶対に、絶対に忘れないから!」
 掠れる声で言った。拳を握り締めて唇をかみ締めて、必死に誓った。
 絶対に、忘れない!
 それは遠い日の記憶。幼い日の大事な、大事な記憶。時間の流れにもまれて色褪せてしまった、だけど、とてもとても大切な、ルリスと、僕との約束の記憶だった。



第一話 ☆彼女の故郷は小学星?☆


「はぁ……」
 結構、ここの駅前って開けてたんだなぁ、ネオンの化粧を施された町並みを見つつ思う。
 赤に黄色にピンクに青、色とりどりの原色が点滅する華やかな世界、そんな世界の住民は皆一様に馬鹿みたいな笑みを浮かべつつ僕の前を横切っていく。会社帰りの、学校帰りの、開放感に酔いしれた人の波。
 それを見て、僕、守本貢は思う。不快だ、非常に不快だ。
「ねえ、聞いた? なんか昨日、西の空にUFOが見えたらしいよ?」
 近くを通った女子高生が楽しげに話していた。とてもとても不快だ。
「UFO!? 宇宙人なんか来るか! そんなくだらないことを大声で話しやがって! なにがそんなに楽しいんだ! こんちくしょう!」
 などとは、もちろん思うだけで、決して叫んだりはしない。そのぐらいの分別はついている。かわりに僕はため息をもう一つ。
「ふぅ……、あ〜あ」
 少し落ち着いてみよう。ほら、よく見てみろよ……。
 こうして吐き出す息も夜だというのにもう白くない。今は春だ。冬じゃないのだ。今日びの高校生だったら、さっきの女子高生みたいにもっと、こう、気分るんるん、夢気分になってたっておかしくないはずなのだ。絶対に居ないであろう宇宙人ごときで盛り上がってたって全然おかしくないはずなのだ。
 それに、ほら、桜の花は散ってしまったけれど、こうして空を見上げると星だって、ホラ、キレイニ…………、見えるはずもない。ネオンの明かりがこうも明るいのだから。
「ああ、もう。なんなんだよ、くそっ!」
 黒く濁った空を見て、僕は誰にともなく悪態を吐いた。せっかく、僕が自分で自分を励まそうと多大なる努力をしてるってのに! なに考えてんだ! 星空! もっと頑張れ!
 ひとしきり、心の中で愚痴を垂れ流してから、
「はぁ……、アホらし」
 時刻は午後六時半。もうすぐ、彼女がここに来る。改めて、彼女からの手紙を見直して、僕はため息をさらにもう一つ。
「気が、進まないよなぁ……」
 本当、気が進まないというか気が重いというか。こう、心が溶鉱炉の鉄みたいにドロドロ暗闇の淵に沈んでいくのが実感できるんだよなぁ。こんちくしよ!
 全ての原因は今日の朝、ウチのポストに入っていた一通の手紙にあった。 (…この続きは本書にてどうぞ)

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