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アクマ・オージ
アクマ オージ

著者:岡崎 裕信
イラスト:成瀬 裕司
■ISBNコード: 978-4-08-630449-8
■判型/総ページ数: 文庫判/256ページ+口絵8ページ
■発売年月日: 2008年9月25日
第一章 悪魔と呼ばれて          相馬逢司の場合

 僕は悪魔だ。

 人の目には見えないけれど、僕の背中には黒い翼が生えている。
 鋭く尖ったこの指には、異端の魔力が込められている。
 呪いに膿んだこのカラダは、近づく者みな不幸にする。

 けれども、世界は僕に優しかった。

 初めはおっかなびっくり。
 しかし次第に力強く。
 世界は僕を許してくれた。
 明るく微笑みかけてくれた。
 ここにいていいよ、と抱きしめてくれた。

 だから決めた。
 僕は決めた。
 この世界を、守ろう。
 たしかにこの手は血にまみれ、人生には黒いシミがついている。
 だけど、その罪深き力で、僕はこの世界を守ってみよう。

 僕のような悪魔にも日差しを分けてくれる、素晴らしいこの世界。
 命にかえても守ろうと決めた。
 死ぬまで戦おうと決めた。





   Day

 チュンチュンと小鳥の調べ。
 カーテンの隙間からは朝日の手招き。
 それらが十三歳の悪魔を目覚めさせた。

「お、おはようございます、千葉県蓮国市。今日も生きててすいません」

 疾風のカラテチョップでオージは目覚まし時計の息の根を止めた。
 分針は『12』にさしかかる直前。チキンレースは今日も辛勝のようだ。
 オージこと相馬逢司は、人間の面の皮を被った悪魔である。世界のお情けで生かしてもらっている存在である。
 だから寝坊なんて許されないのだ。悪魔に遅刻する権利など無い。
「よーし、お布団たたむぞ。お布団、たたむ……」
 しかしオージは二度寝を始めてしまった。布団をギュウと抱きしめるように。
「おのれ、睡魔め。僕は悪魔だぞ。眠りの魔法なんて、僕には、効かな、ムニャムニャ」
 すごいね、成長期。去年なんて一気に7センチも伸びてしまった。今年も同じくらい伸びることだろう。160センチの大台ももうすぐそこだ。
 だから急成長の反動で、少しくらい睡眠時間が延びてしまっても――――。
「ハッ!? だめだめ。悪魔に怠惰は許されない」
 オージは自分の頬を張り倒し、布団を部屋の隅に押しやった。
 欲しがりません、悪魔では。

 悪魔少年の居城は四畳一間。今時ちょっとレアリティのある一品だった。
 押入れナシ。ベランダナシ。トイレは共用。風呂もついていない。
 半年前までは裏に銭湯が建っていたのだが、経営不振から取り壊されて駐車場になってしまっていた。
「でもいいんだ。悪魔が生かしてもらっているだけ儲けもの。電気とガスはきてるしさ」
 そうとも、どんなボロ屋でも住めば都。オージはこのボロアパートが気に入っていた。
「トイレだって共用のはずなのに、なぜか僕専用だしね。贅沢は言えない」
 それはひとえに、アパートの住人が一人しかいないことを意味していたけれど。

 謙虚な悪魔も食わねば死んでしまう。オージは朝食作りに取りかかった。
 まずはモヤシ。フライパンに一掴み放り投げて、醤油でササッと炒めましょう。
 オージはまだ中学二年。好奇心旺盛な年頃だ。『めちゃくちゃ高い』と噂の高級モヤシに興味がないと言えば嘘になる。
 けれどもあれは高嶺の花。貧乏中学生には一袋30円のやつが限界だった。
「でも値段が倍だと、うまさも倍なのかな。あとで『百識』に聞いてみよう」
 続けて投入します。もやしが固まっているところを狙って、生タマゴ、どーん。
 一パック百円の特売品だけれど、オージにとっては贅沢品。透明だった白身が少しずつ色づく情景に、生きる喜びを感じる毎日だった。
 焼き上がったら食パンに乗せて、ハイ、できあがり。
「いただきます。もぐもぐ。ごちそうさま」
 瞬殺。
 育ち盛りの十三歳には、物足りないにもほどがあった。
 けれども文句は言えない。なぜならオージは悪魔――――。
「やめよう。あんまり卑屈になるの。同情ひいてるみたいだ」
 大好きな人達を守りたいのだ。守られたいわけじゃない。
 自分が悪魔であることを自覚し、分をわきまえることは大事なことだ。
 しかし不景気ふりまいて、周囲の人々の笑顔を曇らせるのはいけないことだ。
 ――では、どのような態度で人間たちと接すれば良いのだろう。
 オージは制服に着替えながら考え始めた。
 それなりに控えめで、それなりに力強いポーズ。生意気ではないが、弱々しくもない生き方。
 なかなかどうして難しい。

      ◆

 タタタン、とリズミカルにアスファルトの上を駆ける。
 ずざざざ、とアパートの前でドリフト気味の急制動をかけて。
 ドヒュン、とオージの部屋目がけて突撃。

 いつものこと。オージはドアを開けずとも、足音だけで訪問者が誰だかわかった。
「せ――――い!」
 可愛らしいかけ声と共に、勢いよくドアが開かれた。盗られるものなどないけれど、ノックくらいはしてほしい。
「おはようございますオージ。起きてるですかー? セイが迎えに来ましたよー」 (…この続きは本書にてどうぞ)

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