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劇場版 BLEACH
The Diamond Dust Rebellion もう一つの氷輪丸
ゲキジョウバン ブリーチ

著者:久保 帯人
イラスト:松原 真琴
イラスト:横手 美智子
■ISBNコード: 978-4-08-703189-8
■判型/総ページ数: 新書コミックス判ソフト/224ページ+引き出し口絵4ページ
■発売年月日: 2007年12月22日
 そこは、一面の氷原だった。
 至るところから突き出した刃のような氷柱が、青空を映し、水色に輝いている。
 どこまでも広がる、白と青の世界。
 そのただ中に、ぽつりと一人、銀髪の少年が立っていた。澄んだ翡翠色の瞳で、ただまっすぐに前を見つめている。

 グォオオォォ――――――ン!!

 突然の咆哮。
 先ほどまでの青空がうそのように、鈍色の雲が広がっていく。しん、と静かだった氷原に、分厚い雲から雪が降り、風が巻き起こる。
 吹雪に髪を吹き乱されても、少年はじっと動かない。
「俺の名は、日番谷冬獅郎だ!」
 風にかき消されることのない、勇壮なその声。
 声に応えて、少年の頭上から、巨大な氷の竜が姿を現す。
 竜は吹雪をものともせず、氷の翼を羽ばたかせ、ゆっくりと氷原に降り立った。その重みと霊圧は、地表の氷を砕き、放射状に亀裂を生んだ。
 亀裂の一本が、少年の足もとすれすれで、止まる。
 やはり、少年は一歩も動かなかった。
「………我が名は氷輪丸……」
 それは、声というにはほど遠い、まるで地響きのような、音だった。
 深紅の瞳が、少年をとらえる。
「小僧……貴様が我を持つというのか……」
 竜が言葉を発するたび、少年を拒絶するように、周囲の空気が冷えていく。少年の髪や衣服が、風にはためいた形のまま、凍りつく。
「そうだ」
 少年は、揺るがなかった。
 吹雪の中で、少年と竜が視線を合わせる。
「俺に従え、氷輪丸」
 凍てつくような空気の中で、少年が、スッと右手を差し出した。

 竜が、咆える。
 それはもう、音ですらなかった。
 すさまじい衝撃で、氷柱が、氷原が、竜自身が、粉々に砕け散る。

 キラキラと輝く、氷の破片。
 そのすべてが消え去った時、差し出した少年の手には、一振りの斬魂刀が握られていた。


   1

 空座町。
 暖冬と予報されたこの冬も、十二月に入り、さすがに冷え込みが厳しくなってきた。空座本町駅前には、クリスマスに向けて、色とりどりの電飾で彩られた大きなツリーが立てられ、行き交う人々の目を楽しませている。
 空座第一高校の裏手に、木がうっそうと茂った小高い丘がある。名前は特になく、町民からは、「一高の裏山」「一高裏の森」などと呼ばれているのだが、今、その森の中に、死覇装をまとった死神たちが集まっていた。護廷十三隊・十番隊所属の隊士である。隊士たちは、一定の間隔を置いて立ち、周囲を警戒していた。
 そこへ、はちみつ色の髪をした美しい死神が、瞬歩で現れる。
 十番隊副隊長・松本乱菊である。
「首尾はどう?」
 近くにいた隊士が二人、乱菊に駆け寄ってきた。
「松本副隊長!」
「異状ありません!」
 乱菊は、「そう」とうなずいて、順に二人の顔を見た。
「大事な仕事よ。手を抜かないように」
「ハッ」
 ビシッと背筋を伸ばした二人の前で、乱菊は目の上に手をかざし、空を見上げた。二人も、それに倣う。
 三人の視線の先には、薄桃色の雲の上を歩く、みやびやかな一行があった。

 先頭を歩く一人が、両手で金色の香炉を待っている。浄めの香が焚かれており、あふれ出た薄桃色の煙がたなびいて、一行が雲の上を歩いているように見えた。
 一定の間隔で鳴らされる鈴の音。それに合わせて、ずらりと並んだ旗持ちたちが、一歩ずつ足を進める。楽師たちは雅楽を奏で、極彩色の衣装に身を包んだ踊り手が、優雅に舞い踊る。
 行列の真ん中を進む、荘厳な白木の神輿。表面にびっしりと施された金と銀の細かな装飾が、日光をはじき、きらめいている。輿を担いでいるのは、体格のよい鬼道衆たちだ。その周りには、声を落として言霊を詠唱する数十名の鬼道衆がおり、輿の周辺だけでも百余名の鬼道衆が動員されていた。
 今回、十番隊が警備を任されたのは、この壮麗な行列が運んでいる、神輿の中の物。
 王族に連なる秘宝、"王印"である。

「それにしても、豪華よねえ−」
 乱菊の声には、若干、あきれたような響きがあった。流魂街出身の彼女には、少々やりすぎに映ったのだろう。
「ええ、本当に。……しかし、王印というのはいったいなんなんですか? 警備を言いつけておきながら、目立つな出るな、なんて……」
 隊士の一方が、行列を見つめたまま、言う。こうして彼らが森の中にいるのは、「くれぐれも目立たぬように」とのお達しがあったためである。
「王印っていうのは、王族以外にはその存在を見ることすら禁じられた、人の目にさらされることのない秘宝……。使用方法も能力も、わたしたちには知る由もない。ただ……」 (…この続きは本書にてどうぞ)

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