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ONE PIECE
エピソード オブ チョッパー+ 冬に咲く、奇跡の桜
ワンピース

著者:尾田 栄一郎
イラスト:浜崎 達也
■ISBNコード: 978-4-08-703190-4
■判型/総ページ数: 新書コミックス判ソフト/240ページ+口絵4ページ
■発売年月日: 2007年2月25日
プロローグ

 その日、雪降る冬島に一隻の船がやってきた。
 予期せぬ訪問者を、男たちが入り江で取り囲んでいた。島の自警団だ。静かな島の平穏を破ったのは、ライオンの船首像が勇ましい、竣工ほどない印象のスループ船だ。艤装からして商船ではない。それが世界に数本しかないという、べらぼうに高価な宝樹材の船であると気づいた者がいたなら、きっと驚いたはずだ。なぜ、この船にと。そして彼らは何者かと。
 フォアマストでは、ドクロの旗が雪風に濡れる。
 船名は〈サウザンドサニー号〉。麦わら帽子をあしらった海賊旗は〈麦わらの一味〉のしるしだった。
「医者を探している!」
〈サウザンドサニー号〉の甲板で、ひとりの海賊が声を上げた。
 分秒を争うといった勢いだ。しかし必死の懇願も、島民たちにはねつけられる。
「出ていけ! 海賊!」
「立ち去れ!」
 罵声がぶつけられる。海賊は略奪者だ。彼らは土地に根をはることができず、ゆえに実りをもたらすことはなく、浮き草のように海をただよう無法者だった。気ままに陸に上がっては、ささやかな暮らしを破壊し、愛する者を殺し、食料、酒、宝石、心ゆくまま、金持ちからも貧乏人からもわけへだてなく生きる糧を奪っていくのだ。
 だから守らねばならなかった。家族を、町を、たとえ市民が銃を取ってでも。
 嘘と偽りが美徳とされる海賊とは、交渉すら無意味だ。そのことは、世界にちらばる廃墟の町の数が教えてくれるだろう。
「仲間が病気なんだ! 医者に診せるだけでいい!」
 まだ若い海賊は叫びつづけた。
 着ぶくれした防寒着にはちょっとにあわない麦わら帽子を被っている。
「うすぎたねェ手に乗るか!」
「ここは、われわれの国だ! すぐに錨を上げて出ていかなければ、沈めるぞ!」
 島民たちは空にむけて威嚇射撃をした。
 銃声に、甲板にいた仲間の海賊たちが身構える。数十人の自警団に対して、海賊たちはわずか十人に満たない。いかにも少ない。ほかの海賊は海に呑まれたのか、あるいは、その病気とやらで死んだのか。いいや、わからない。こいつらは偵察部隊で、沖には海賊の大艦隊が控えているかもしれない。
「なら……医者を連れてきてくれ! 上陸はしない――」
「っざけんな!」
 血気盛んな島民のひとりが銃を撃った。銃弾が帆を貫いていく。
「てめェ、おれの船を……!」
 船を撃たれたことに、トンガリ髪のサングラス男が巨体をいからせた。殺気をぶつけられた島民たちは、素人の悲しさ、海賊への恐れのあまり、ろくに狙いもつけず次々と引き金をひいた。銃弾が船のあちこちで跳ねる。
「やめろ、彼らは――」
 自警団のリーダーらしき男が、あわてて仲間を止めようとした。よせ集めの男たちのなかで、彼だけは防寒仕様の装甲を着けて、屈強の、いかにも軍人といった雰囲気をただよわせている。軍人であれば、海賊の恐ろしさだけでなく強さも知っていた。相手はリヴァース・マウンテンを越えて〈偉大なる航路〉を進む、正真正銘の海賊だ。まともに戦えば、たとえ十倍の頭数がいても素人では危うい。銃を撃つことなく島から追い出すのが、おたがいのためだったのだ。
「あ……!?」
 一発の銃弾が、ついに麦わらの海賊の胸を貫いた。
 銃弾を胸に受けた海賊は、ぐらっと前かがみになって甲板に膝をつく。撃ったのは自警団でもいちばん年若い少年だった。人を撃ったことはもちろん、ろくに狩りもしたことがなかった少年は、自分のしたことに狼狽して、ふるえながら銃を雪の上に投げ出した。
「麦わら……」
「ルフィ!」
 海賊の仲間たちが声を上げた。
 そのまま前のめりに倒れるかと思われた麦わらの海賊だったが、両手をついて体を支えると、そのまま深々と頭を下げた。
「医者を呼んでください……!」
 額を甲板につけたのだ。
 海賊が土下座するなど聞いたことがない。島民たちは、どうしたらいいものか、すっかり対応に困って自分たちのリーダーを見た。
 自警団のリーダーは、麦わらの海賊をあらためて見た。
 十七、八歳の、よくよく見れば銃を撃った少年とさして変わらぬ年ごろだった。ほかの連中もみな若者ばかり。あの麦わら帽子の海賊旗は――あるいは、この少年が船長なのか。
「村に、案内しよう」
 自警団のリーダーがいった。この言葉に、島民たちはざわついた。
「ドルトンさん! しかし……」
「問題が起きれば、わたしが責任をとる」
 ドルトンと呼ばれたリーダーがいった。
 頭を下げた麦わらの海賊は、ドルトンの返事に、ようやく安堵の表情を浮かべた。ただ、銃弾を受けたはずの彼の胸からは、血の一滴も流れてはいなかった。
 伝説の海賊王ゴール・D・ロジャーが遺した〈ひとつなぎの大秘宝〉をめぐる、船と冒険の世紀。海賊たちは、みずからの旗を掲げて〈偉大なる航路〉の覇を競っていた。
 銃と、剣と、砲と、航海術と、権謀術数と――なかでも威をふるったのは、海の秘宝・悪魔の実を食べ、驚くべき力を手にした”能力者”たちだった。

 時は、大海賊時代。
 これは『ゴムゴムの実』を食べた能力者、モンキー・D・ルフィと〈麦わらの一味〉の物語である。
(…この続きは本書にてどうぞ)

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