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銀魂
3年Z組銀八先生3 生徒相談室へ行こう!
ギンタマ

著者:空知 英秋
イラスト:大崎 知仁
■ISBNコード: 978-4-08-703193-5
■判型/総ページ数: 新書判ソフト/208ページ
■発売年月日: 2008年7月4日
第一講

 無理に崖の上で犯人と対決しなくてもいいんじゃね?



 青春は人生にたった一度しか来ない。(ロングフェロー)

 この名言コーナー、読者はもう飽きてんじゃねーか?(坂田銀八)

 シッ!(志村新八)



       *

 その日、志村新八がいつもより早い時刻に登校したことに、特別な理由はなかった。
 ただ、いつもより三十分早く目が覚めてしまい、その三十分の余裕を、いつもより時間をかけて朝食をとったり、朝の情報番組を観たり、なんてことに使わなかっただけである。早く目が覚めたから、早く家を出て登校した――気まぐれ以外のなにものでもないその行動を、新八はしかし、3年Z組の教室に入った瞬間に後悔することになる。

 午前八時五分――。
 当然自分が一番乗りだろうと思いつつ、新八は教室の引き戸を開けた。
 が、違った。教室にはすでに人がいたのである。
 現れた新八に、その人物はなんの言葉もかけてこなかった。いや、言葉を話せる状態になかった、と表現すべきであろうか。教室前方の教卓のすぐそば、つまり、引き戸を開けた新八の数歩先で、その人物はもの言わぬ骸と化していたのである。
 骸の顔は、新八も知る顔であった。
 銀魂高校風紀委員長であり、新八の姉、お妙を日々つけ回すストーカー ――近藤勲。その近藤が、上下体操服姿で仰向けに倒れていたのである。絶命する瞬間の恐怖を焼きつけたかのように、近藤の双眸は見開かれ、虚空を睨んでいた。
 始業前の教室に、あるはずのない、あってはならない、級友の死体。いわゆる第一発見者というやつに、この時点で新八はなってしまったのである。
「近藤さん……そんな、連載一回目なのに……」
 目を潤ませ、かぶりを振りながら新八は一歩あとずさった。
 友の亡骸を正視できず、新八は黒板へ視線をそらした。
 と、そこに白いチョークで文字が記されていることに気づいた。
  天誅
 黒板には殴り書きで、その二文字が記されていた。
 天誅……? 眼鏡の奥で目を細めた新八は、次に黒板の下に奇妙な物を見つけた。
 黒い炭、いや、そうじゃない……。
 近寄って見てみると、それは黒こげになった酢昆布の残骸であった。誰かが、ここで酢昆布を燃やしたのだ。いつ燃やされたものかはわからない。が、嗅覚に意識を集中してみると、室内にはかすかに焦げ臭いにおいが漂っている。
 近藤の死体のそばに、酢昆布の燃えカス。
 そして、黒板には「天洙」の二文字……。
 基本お気楽な3Zシリーズのオープニングシーンにしては、あまりに陰惨な光景。しかし、新八もただたじろぎ、嘆いているばかりではなかった。
「近藤さん……」眼鏡を押し上げ、新八は拳を固めた。「近藤さん! あとは任せてください! あなたがいなくても、この3Zシリーズ、僕たちはきっとやり遂げてみせます!」
 叫んだ直後だった。
 近藤ががばりと起き上がった。
「ていうか俺、死んでねーから!」

       *

 まあ、死んではいなくても、当然騒ぎにはなるわけである。
「え、ゴリラが倒れてた?」
「酢昆布が燃やされてた?」
「誰がやったの?」
「てか、ノベライズの連載って、それ大丈夫なの?」
 なんて、三々五々登校してきた生徒たちが騒いでいると、そこへ現れたのが、天然パーマの白髪頭、死んだ魚のような目、ずれた眼鏡とゆるめたネクタイ、今日もダルさ満開の銀ぱっつぁんである。
「ぎゃーぎゃーうるせーんだよ、おめーら。韓流スターを空港で待ち構えるオバサン連中ですかコノヤロー」
 教室の戸口の前でそう言って、いつものように生徒を着席させた銀八。しかし、黒板の文字、酢昆布の燃えカス、さらには生徒たちの表情がいつもとは違うことに気づき、「なにかあったのか?」と片眉を上げた。
「や、実はですね――」
 という第一発見者・新八の説明を聞き終えると、銀八は煙草に火をつけて言った。
「なんだよ、死んでなかったのかよ。連載一回目だから死んでた方がインパクトあったのによー」
 担任のその無慈悲な言葉に、
「確かにねぇ」と続けたのが、ドS風紀委員の沖田総悟である。「やっぱり死んでた方がよかったですよねぇ、土方さんが」
「なんだ、その倒置法は」
 こめかみにピシリと血管を浮かべるのは、言わずと知れた沖田の天敵、風紀委員会の副委員長、土方十四郎である。
 銀八がなおもブツブツ言う。
「やっぱ死んでんのと気絶してんのとじゃ、インパクトに差があるよなー」
「テユーカ、本当ハ死ンデタコトニシテ、モウ一回最初カラヤリ直セバイインジャネ?」
 カタコトで呟いたのは、猫耳腹黒女のキャサリンだ。
「いや、さすがにそれは無理でしょ」
 新八が良識的なコメントを出した直後だ。志村妙ががタンと席を立った。
「近藤さん、あなたのことは、グスン、一生忘れないわ!」
「ちょっと姉上!」新八は慌ててたしなめる。「それ完全に『近藤さんが死んでたバージョン』のセリフじゃないですか」
「そうよ。死んでたバージョンでやり直すんでしょ?」
「だから無理ですって。てか、ストーカー被害に苦しめられたからって、それはあんまりですよ」 (…この続きは本書にてどうぞ)

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