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劇場版 BLEACH
Fade to Black 君の名を呼ぶ
ゲキジョウバン ブリーチ

原作:久保 帯人
著者:松原 真琴
■ISBNコード: 978-4-08-703197-3
■判型/総ページ数: 新書判ソフト/224ページ+引出口絵4ページ
■発売年月日: 2008年12月15日
 南流魂街七十八地区・戌吊。
 流魂街は、東西南北で大きく四つに分けられている。各流魂街には、瀞霊廷に近いほうから順に一から八十までの地区があり、数字が小さいほど治安がよく、大きいほど悪い。あのころの僕らは、そんな尸魂界の地理なんて知らなかった。戌吊以外がどうなっているのかなんて、知らなかった。
 盗みと殺しが日常化している、最低の街。
 そんな街で、僕らはあの雪の夜、彼女に出会った。

 あの日は、朝からずっと、ぼたぼたと大粒の雪が降り続いていた。僕らがねぐらにしていた街外れにある廃屋は、屋根に降り積もった雪の重みで、今にもつぶれそうだった。
 ミシッ……メリッ……。
 家が、悲鳴を上げている。
「こうしてれば、怖くないでしょ?」
 姉さんはそう言って、家がきしむ音に震えていた僕の耳を、そっと両手でふさいでくれた。僕は、ほほ笑んで僕を見つめている姉さんに寄り添い、少しの間、眠った。
 ドオッ、という、屋根から雪が滑り落ちる音で目覚めた僕は、隣に横たわる姉さんが、ぐったりと脱力していることに気づいた。
「ねえさん……?」
 顔をのぞき込んで声をかけても、反応がない。肩を揺すると、それに合わせて、頭がゆらゆらと力なく揺れた。
 ミシッ、と、また家がきしむ。
 さっきまで耳をふさいでくれていた両手が、今はだらりと床に投げ出されている。
「ねえさん……おきてよ! ねえさんっ!」
 姉さんは、青白い顔をして、ピクリとも動かない。
 これじゃあ、まるで………。
(死んでる、みたいだ)
 自分の考えにゾッとした。姉さんが死んでしまったら、僕はひとりぼっちになってしまう……! 恐怖に突き動かされて、僕は家を飛び出した。
 ひざ辺りまで積もった雪をかき分けながら、街の中心へ向かう。いつもたくさん露店が出ているあの通りなら、こんな雪の夜でも、人がいるかもしれない。
「だれかたすけて! ねえさんが死んじゃう……!」
 叫びながら進んだ。雪明かりの中、目をこらして通りに面した家々を見るが、戸も窓も固く閉ざされたままだった。
「ねえ、だれか!! ねえさんが……ひっく……」
 涙が止まらなかった。
 手足はもう感覚がないほど冷えきっているのに、目の周りだけが熱かった。
 姉さんはいつだって、食べものを半分にわった時、大きいほうを僕に与えてくれた。
『最近、なかなか食べもの持って来られなくて、ごめんね』
 姉さんはいつだって、ひとりで家を出て、どこからか食べものを持って帰ってきた。
 出かけた時にはなかった、すり傷や痣を作って。
『あたしは途中で一つ食べてきたから、これは全部あんたの分だよ』
 にっこりほほ笑む姉さんの、痩せた頬。

 僕は、ばかだ。
 ここ数日、姉さんは僕の前でものを食べていない。途中で食べたなんて、きっと嘘。貴重な食べものを、すべて僕に与えていたんだ。
 どうして気づかなかったんだろう? 姉さんは、空腹で意識を失ったんだ……! 僕の……僕のせいで!!
「ねえさん……っ」
 僕は、その場にがくりとひざをついた。悲しさと悔しさで立っていられなかった。僕は食べものの入手法を知らず、住人に戸を開かせる術も持たない。僕には……何もできない。
 その時。
 細い路地から、ざくざくと雪を踏む足音が聞こえてきた。手の甲で涙をぬぐい、顔を上げる。
 路地から現れたのは、古ぼけた番傘を差した、黒髪の少女だった。彼女は、うずくまっている僕を見つけると、駆け寄ってきて傘を差しかけてくれた。
「助けを呼んでいたのは、お前か?」
 僕をまっすぐに見て、よく通る澄んだ声で、言う。
「ねえさんを、たすけて……!」
 絞り出すように言って、彼女のほうへ手を伸ばす。彼女は、その手をギユッと握り、うなずいた。
「案内してくれ」
 彼女は、姉さんより年上であることは確かだが、大人と呼ぶには幼すぎる容姿をしていた。
 それでも、僕はこの時、助かった……と、
 強く強く、思ったのだ。 (…この続きは本書にてどうぞ)

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