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銀魂
3年Z組銀八先生4
あんなことこんなことあったでしょーがァァ!!
ギンタマ

著者:大崎 知仁
原作:空知 英秋
■ISBNコード: 978-4-08-703201-7
■判型/総ページ数: 新書判ソフト/256ページ+口絵4ページ
■発売年月日: 2008年4月3日
 第一講 映画ってほんとに素晴らしいものですね

 魂のこもった青春は、そうたやすく滅んでしまうものではない。(カロッサ)
 うーむ、もっちゃ、まさか四巻まで、もっちゃ、出るとはねえ、もっちゃ。(坂田銀八)
 いや、なんか食ってるでしょアンタ! 緊張感ゼロ?(志村新八)

           *

 撮影スタッフの乗り込んだロケバスの中は緊張感に包まれていた。
 かぶき町駅の近くにとめられたロケバスである。監督助手やカメラマン、メイク係等々、総勢二十名ほどのスタッフは皆、一様に険しい表情を浮かべている。そんな中、最後列の座席、ひときわ不機嫌そうに煙草を吹かし続ける男がいた。
 ぴったりと七三にわけられた髪型はカタギのサラリーマン風だが、その下にある顔は違った。細い眉と鋭い目つき。顔を斜めに走る傷跡。剣呑な面構えは極道者のそれを思わせる。
 男の名は黒駒勝男。職業はヤクザ、ではなく、「こちらの世界」では映画監督であった。
 年齢は中年の域にさしかかっているが、勝男の監督としてのキャリアはさほど長くない。衝撃のデビュー作と評された、初の監督作品、『となりのペドロ、ニューメキシコに行く』を世に問うたのが五年前。以降、長編映画二本を監督し、特に去年発表した任侠アクション映画、『仁義なきジンギスカン鍋』は、カンス国際映画祭「ある視点ってどの視点?」部門にも正式に出品され、ファンの裾野を大きく広げる結果ともなった。
 今一番勢いのある映像作家、と世間の注目度も増しつつある勝男。
 だが、本人は決して現状に満足してはいなかった。
 前作の成果でファンは増えたが、まだブレイクと称される状況には届いていない。
 次だ。次の最新作で自分はさらに高みを目指す――。
 その思いを期した最新作は、前作の任侠モノから一転、学園青春モノであった。とある高校を舞台に、生徒たちの恋や友情を真正面から描く、ストレートな青春ドラマである。ときに難解と評される自分の作風、それをガラリと変え、一気に監督としてメジャーな存在になりたい、という勝男の狙いがそこにはあった。
 で、今日がその最新作の撮影初日。なのだが――。
「どないなっとんねん!」
 スタッフが捧げ侍つ灰皿に煙草をねじりつけ、勝男は怒鳴りちらすのだった。
「役者も来えへんわ、マネから連絡もないわて、どういうことやねん!」
 そう。来ないのである。役者が。約束の時間を過ぎても。
 現在、時刻は午後一時。本来なら正午には主演の役者二人が、所属事務所である集英プロのマネージャーに連れられて、このロケバスの撮影隊と合流するはずであった。
 が、来ない。事務所のマネージャーから「遅れます」という連絡も来ない。こちらから電話しても留守電になるばかりである。
「前の仕事が押してるんですかねぇ……」
 苦笑いでそう言った別のスタッフを、
「そんなわけあるかボケコラカス!」勝男は怒鳴りつける。「大体あの役者ども、そない忙しいスケジュールちゃうやろ。そやのに遅刻するて、ほんま腹立つわあ!」
「撮影スケジュールずらしまっか?」
 恐る恐る言ったのは監督助手だったが、
「できるかボケェ!」とやはり勝男は一喝。「今回の撮影は予備日なんかないねん。最初に決めたスケジュール通り撮影せな間に合わんことぐらい、おのれも知っとるやろ! かあーもう! どないなっとんねん!」
 勝男が七三のわけ目から血を噴き出さんばかりにシャウトしたときだ。
 ロケバスの外にいたスタッフの一人が、車内に駆け込んできた。
「アニキ! ちゃうわ、監督!」その手にはケータイが握られている。「集英プロのマネージャーさんから連絡入りましたで!」
「やっとかい!」怒りつつも、待ち侘びていた一報に勝男の声は弾んだ。「ほんで、いつ頃到着やて?」
「それが、役者が二人ともインフルエンザでダウンしたんで、今日は未られないそうですわ!」
「そうかインフルエンザか、そらしゃーない……ってドアホ! もっかい言うわ、ドアホ! 来られへんて、それどういうことやねん!」
「今日ここに未るのが無理っちゅう意味ですわ」
「わかっとるわ! 丁寧に説明すな!」勝男は叱りつけると、そばの座席の背もたれを思い切り蹴りつけた。「なんやねん、あのクソ役者ども! もうええ! あの二人はクビや! 使わへん! 撮影初日に病欠て、プロ意識なさすぎやないけ!」
 病欠―― 即クビ。勝男の容赦ない決断に、スタッフたちは一瞬引いたが、勝男にしてみれば当然の選択だった。自分はイケイケの監督。これぐらいのことをして、なにが悪い。
「あの……」とスタッフが言いにくそうに続ける。「もしキャストの変更が可能なら、集英プロの方でも一応代役を探してみてくれる言うてましたけど……」
「そんなもん期待できるかい!」勝男はイライラと吐き捨てる。「そもそも代役探すくらいなら、病欠するようなヘタレな役者寄越さんかったらええねん!」
「で、でも、どないするんでっか」すがるように言うのは監督助手だ。「役者がいいひんかったら、撮影できまへんで」
「わかっとるわ!」大声で返し、勝男は舌打ちする。「くそ、あの役者ども、大した俳優でもないくせに……、なんであいつらのせいで、わしがこんな迷惑――」  と、次の瞬間だった。
「待てよ……」
 勝男の脳裏に一筋の光明が走った。もともと大した俳優でもないということは――、
「……むしろ代役の方がええんちやうか?」
 呟いた勝男に、スタッフが言う。
「ほな、監督。集英プロが代役見つけるまで待機――」
「集英プロに頼るつもりはないわ!」勝男は追って言った。「代役はわしらが自前で調達するんや」
「自前で?」
「そうや。ロケ先で役者探すんや。最近の素人はカメラぐらいじゃ物怖じせえへんからな。『映画に出したる』言うたら、喜んで手ぇ挙げるはずや」
 言いながら、勝男はそれがかなりの名案に思えてきた。中途半端なプロを使うくらいなら、荒削りでも勢いのある素人の方が、作品にも熱気が生まれるというものだ。ブレイクを期した作品を撮るには、むしろそのぐらい大胆なキャスティングをした方がよいかもしれない。
「ロケ先で緊急オーディションや!」
「あの、ロケ先というと……」
「銀魂高校に決まっとるやろ!」勝男は、撮影許可をもらっている高校の名を告げた。
「そこでオーディションや! おら、運転手! さっさと出発せんかい!」

 銀魂高校に着き、勝男がまず踏んだ段取りは、理事長に話を通すことだった。
 生徒を役者として起用したい、ついてはそのオーディションもさせてほしい――。
「――まあ、急な話は承知なんでっけど、なんとかおカを貸してほしいんですわ」
 理事長室の応接セット、勝男の向かいに腰かけた女理事長―― お登勢は、話をきき終えると、煙草の煙をふうと吐き、思案頭になった。
「オーディション、か。……どうしたもんかね」
「わし―― 黒駒勝男の映画に出られるとなったら、生徒さんご本人も、ひいては学校さんも鼻高いんちゃいまっか?」
「理事長。監督の仰る通りだと思いますぞ」
 言ったのは、理事長のうしろに立つハタ校長である。
「ロケ地に選ばれただけじゃなく、生徒が出演、それも主演したとなると、マスコミの注目度も増すでしょうからな」
「確かに」と校長の横に立つ教頭も頷く。「そうなると我が校の人気も、うなぎのぼりでしょうな」
「人気ねえ……」理事長は煙を吐く。「あんまり浮わついた理由でうちの学校を志望してもらっても困るんだけどね」
「てことは……」勝男がきく。「生徒さんをお借りするのはアカンちゅうことですか?」
「そうは言ってないよ。話をきく限り、アンタも困ってるみたいだしさ、協力はするよ。ただし――」
 理事長は目を細めて続ける。
(…この続きは本書にてどうぞ)

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