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精神科医が教える「怒り」を消す技術
備瀬哲弘

   はじめに

 怒りの背後には、「おそれている」気持ち、もしくは「ゆるせない」気持ちのどちらかが、必ずあります。両方がある場合もあります。
 この二つの気持ちの反対「おそれない」「ゆるす」を選択できるようになれば、怒りの感情から解放されます。
 そして、毎日、心を穏やかにして過ごせるようになるのです。
「そんなことができるようになるには、膨大な時間がかかることだろう」という疑問を抱く人もいるかもしれません。
 いいえ。実際には時間はかかりません。
「おそれない」こと、「ゆるす」ことを選択すると心に決めた、その瞬間から、私たちの行動は変化します。
 怒りに囚われそうになるたびに二つの選択を意識すれば、今すぐできるようになります。そうすると決め、そう振る舞えばいいだけです。
 本書を手に取ったあなたは、日々、自分の内部で湧き上がる怒りをコントロールできずに頭を悩ませているのではないでしょうか。
 怒りは、日々の生活に、ひいては人生そのものに大きな影響を与えます。怒りにまかせて行動したあとには、大抵は後悔したり、罪悪感を覚えたりするものです。
 怒りが引いたあと、深いため息とともに、時間を怒りの前に戻して自分の言動を取り消したいと後悔した経験がある人も、きっと多いに違いありません。
 その一方で、私たちは他者が激しく怒り狂っている姿を目の当たりにしたときには、「なぜ、あんなにつまらないことで、そこまで怒るのだろう?」と冷ややかな視線を注ぎます。
「そりゃあ、あの人も怒るよなあ」と他者の怒りに一定の共感ができるケースでさえも、「でもまあ、そこは大人なんだからグッとこらえて……」と客観的に見ることができます。
 しかし、いざ自分のこととなると、他人のことのように怒りを無視できません。
「もう我慢できない。この件だけは、どうしても譲れない!」
 などと、顔を真っ赤にし、肩をいからせて、拳を振り上げることになります。
 次のような格言があります。
「理由のない怒りはない。だが、じゅうぶんな理由があることはめったにない」
「アメリカ建国の父」と讃えられるベンジャミン・フランクリンの言葉です。
 この言葉が長らく人々に受け入れられていることからみても、冷静に客観的な目で見て正当だと判断される怒りは、私たちの日常生活ではまずないといえそうです。
 怒りは、他者のものである限り、取るに足りないものです。しかし、いったんそれが自分自身のものとなると、「絶対に譲れない」重要事項に変化するのです。
 ときには、怒りは暴走し、人生そのものを変えてしまいます。特に、怒りを感じた直後には、怒りが直接的な暴力や暴言に置き換わり、社会生活を破綻させてしまうこともあるのです。怒りは、それほど大きな力を秘めています。
 当然のことながら、目の前のことをどのように受け止め、次にどんな行動をするのかは、自らの意思による選択です。
「怒る・平静を保つ」「怒りを顔に表す・顔に表さない」、といったことは、すべて自分の責任で瞬時に判断し、選び取っています。その冷静な選択を惑わす大きなパワーを、怒りは秘めており、そのために多くの人が手を焼くのです。
 しかし、冒頭に述べた二つのこと「おそれない」「ゆるす」の意味をかみしめながら生活していくと、まずありのままの自分自身を受け入れられるようになります。ありのままの自分を受け入れると、体中の不自然な力が抜けていきます。そして、「怒りのコントロールがうまくできる」という、自信が湧いてきます。
 そうして、怒りの感情を実際にうまくコントロールできるようになります。心が平穏である時間が、日に日にふえていくのです。
 心が平穏な状態が長く続いていけば、たとえ不測の事態でイラッとしても、また、しつこい怒りを感じたときでも、素直に対処方法を実践できます。イラッとしても、あまり時間をかけることなく心の平穏を取り戻せるようになるのです。
 そして、怒りのコントロールだけにとどまらず、体の内側から湧き出てくるような幸福感を自覚する時間までもがふえていきます。
 実は、このような変化は、私自身が体験したことです。
 私は元来、怒りっぽい性格です。
 しかし現在では、比較的多くの怒りをコントロールできるようになりました。怒ったこと自体について、以前のように罪悪感を抱くこともありません。
 怒りは、人間にとってごく自然な感情の一つです。そう考えて、自分の怒りに対して、淡々と落ち着いて向き合えるようになったのです。
 具体的には、気持ちの切り替えが上手になりました。また、怒った相手が家族であれば、場合によっては「自分はなぜ怒ったのか」ということについて、冷静に話し合うことができるようになったのです。
 日常生活で、怒りに費やす時間とエネルギーが大きくへりました。さらに、怒りをコントロールすることは、その実践を通して幸福感が増していくという、喜ばしい効果も実感しています。
 今、この文章を読んでいる人の中には、怒りをコントロールすることなどできないと不安に思う人もいることでしょう。
 大丈夫です。私自身の経験からすれば、「怒りをコントロールしたい」と強く望んでいれば、必ずできるようになります。そして、幸福感も確実に増していくのです。
 私自身が身をもって体験した感情のコントロールと溢れる幸福感を、本書をきっかけに多くの人に実感してほしいと考えています。

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