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晴れても雪でも
キミコのダンゴ虫的日常
北大路公子

 26 ふむふむいやん

 一月一日
 あけましておめでとうございます。
 四月号での新年の挨拶もこれで三度目、最初は若干の戸惑いもなくはなかったのですが、慣れてしまえばどうということはないですね。ほんと人はあらゆることに慣れますね。父が昔ゴルフ用に買ったという強烈なピンクのセーターを部屋着にしていて、最初は見るたび「酒の飲み過ぎでついにピンクの象の幻覚が?」と一瞬ぎょっとしたものですが、今やそれすら慣れましたからね。これで本当に幻覚が見えるようになっても、もう安心。
 というわけで、朝からお酒。お正月なので堂々と飲む。飲みながらも家族サービスの一環として麻雀に参加したところ、「負けてる時のウザさがザキヤマそっくり」と妹に指摘された。確か去年も同じことを言われた気がする。ザキヤマは麻雀が終わるといつのまにかいなくなるそうです。

 一月二日
 朝から雪かき一時間の刑。「私が雪を止めてみせる!」という昨年からの決意は変わらぬものの、正月に入って気が緩んでいるのかもしれない。その後、初詣。一昨年まではわりと大きな神社にお参りしていたのだが、駐車場は狭く人は多く足下はつるつるで途中で必ず家族の誰かがはぐれ最後絶対親子喧嘩が始まる、というどうにも心が荒む結果になりがちなので、昨年からは「ここ、神様います?」と尋ねたくなるような近所の小さな神社へ出向いている。今年も、バリバリに凍りついた手水鉢のひしゃくに参拝客の少なさを実感しつつお参り。神社に関してはなぜか権威主義の父が、「こんなのでご利益あるのかなあ」と罰当たりなことを口走っていたが、寄り付く人のいない頑固じいさんに懐いて遺産を一人相続する孫みたいな感じで願い事を叶えてもらえると思う。
 夕方からは友人のハマユウさんを迎えて酒宴。うちの母は人に酒を飲ませるのが好きで、相手が一口飲むたびにすかさず酒を注ぎ足す癖があるのだが、「自分のペースで飲むから放っておいてくれ。二度と私に酒を注ぐな」と以前私にキレられ封印されたその技を、今日はハマユウさん相手に思う存分発揮していた。あれ、ものすごく鬱陶しいんだけど、止めてあげればよかっただろうか。

 一月三日
 人を殺す夢と原稿ができていない夢を交互に見てうなされながら目を覚ます。正月が終わるのがそれほどまでに嫌なのか。嫌です。正月にしがみつくように、朝からテレビとビール。「もし私に息子がいて箱根駅伝の選手にでもなったら応援に行かなくちゃいけなくなるから、本当に息子がいなくてよかったと思う」と言ったら、「それほどまでに家でだらだら酒飲んでいたいのか」と母に訊かれる。いたいです。夜はさすがに飲み疲れて早寝。

 一月四日
 ぼちぼち通常モードに戻さねばと思っていたにもかかわらず、たっぷり眠って体調がいいせいで、十二時間にわたってビールを飲み続けてしまう。脳細胞の死滅する音が聞こえるようだった。

 一月八日
 雪かき一時間。それはいいのだが(よくはないのだが)、車のバッテリーが上がってしまってエンジンがかからない。念力や気合など様々試してみたがどれもダメで、結局、ガソリンスタンドのお兄さんに来てもらうことに。が、現れたお兄さんが「これ、ブレーキ踏まなきゃエンジンかからないんですよ。ブレーキ踏んでなかったんじゃないですか?」と爽やかに言い放ったことで、子供の頃、何かというと「年寄りだと思って馬鹿にして」と怒っていた大人たちの気持ちを四十年の時を経て突如理解する展開に。あの頃「誰もそんなこと言ってないのに」と思っていたが、言わなくてもはっきりわかることが世の中にはあると知る。

 一月九日
 雪かき一時間。

 一月十日
 雪かき一時間。冬も雪もなかなか止められないが、私の神通力効果で気温は平年より高く、おかげで雪が死ぬほど重い。一番駄目なパターンである。
「邪魔しないのが手伝いだ」と親に言われた昔を思い出す。

 一月十一日
 雪かき三十分の後、文教堂北野店で『最後のおでん』文庫出版記念のミニサイン会。世間が怖いので、あまり人目に触れない隅っこをお借りしてこっそり開催させてもらったが、思いのほかたくさんの方(当社比)に来ていただく。ただ、人目に触れない隅っこに行列ができてしまったことにより、同じく隅っこにある官能小説コーナー目当てと思しき男性客が棚に近づけずにいたのは申し訳なかった。帰り際、彼の代わりに立ち読みしておく。ほほう。ふむふむ。いやん。
 サイン会の後は友人たちとジンギスカン。昨夜も焼き肉飲み会だったというハマユウさんが珍しくジンジャーエールで乾杯している。二日酔いかと思ったら、一杯目は禊だったようで、二杯目からは通常どおりのペースでジョッキを空けていた。間にソフトドリンクを挟むと、前の日の酒はなかったことになるらしい。肉の後はY姉妹に同行し、Y家でだらだらとビール飲みながら相撲観戦。なぜ真っ直ぐ家に帰れないのか私は。

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