ピロティ pilotis[フランス]
建物の1階部分が吹放ちの空間になるように建物上部を支持している独立柱。さらに広く、こうした独立柱群によって作られた、建物基部の、開放的な空間全体をいうこともある。もともとは、フランス語で建物を支持する杭を意味する語であったが、1920年代より、ル・コルビュジエが近代建築の新しい方法として主張したことに伴って一般化した。
(平凡社『世界大百科事典』より)
◇
あ、渡部さんですか。
早かったですね。
わたしも早めにと思って家を出てきたんですが、どうもお待たせしてしまって、済みません。ここの管理人の山根と申します。
はいはい。支店長から話は聞いておりますので。こちらこそ引き継ぎのほう、よろしくお願いします。
わたしのときは管理会社ごと替わったんで、引き継ぎといっても名ばかりでしたから、まるっきり手探りでしたよ。
いやねえ、後任の方が見つかってほんとありがたいです。ちょっと膝を悪くしてしまったもんで。
じゃあ、車を、来客用の駐車場に入れてもらえますか。わたしは今すぐ、管理人室から車止めの鍵を持ってきますから、ちょっとお待ち下さい。
……お待たせしました。
あの突き当たりのピロティのところに車止めていただけますか。
わたし後ろ見てますから。
じゃあ、バックオーライ。ハイ、オライライライ、ハイッ、ストオップ!
それで、この駐車許可証をダッシュボードの上に置いておいてもらってと。これを出していない車輛は無断駐車となりますんでね。業者の車なんかも、すべてそうしてもらってるんです。
けっこう無断駐車には悩まされるんですよ、この仕事は。はじめてみたら、すぐわかると思いますけど。
……管理人用の駐車スペースは、ここの二番になってます。
見てくださいよ、両隣はパジェロと3ナンバーのベンツでしょ、おまけに前も建物が迫ってるんで、止めにくいとは思うんですが。
わたしもはじめの頃は、擦らないようにずいぶん神経使いましたけど、まあ慣れますわね。
ここは全部で世帯数が四十二戸あるんですけど、居住者用の駐車場の数が十二台分しかないんですよ。
あそこの一番端が少し空いてますけど、あの赤いコーンが立っている……。
ええそうです、でもあそこは、消防車や救急車なんかの緊急車輛用に確保しておかんといけませんのでね。
駐車場は、引っ越して行ったりして空きが出たときに抽選することになっとるんですが、外れた人は、近くの駐車場を借りてもらっとるんです。
今日は最初なので、まずは朝出てきてからやることの手順をざっと教えますね。
じゃあ管理人室から案内しますか。ちょっと窮屈なんですけど。その前に着替えを済ませますんで、すみません、ここで待っとってもらえますか。
……どうもお待たせしました。ちょっと報告書が置いてあったのを確認してたもんだから。昨日の夜中に非常ベルが鳴ったらしいんです。たいしたことはないです、ときどきね、感知器が誤作動することがあって。
まあ、どうぞどうぞお入り下さい。
あ、渡部さんも着替えお持ちなんですね。じゃあ、わたし外出てますんで、どうぞここで着替えて。
……はい、どうも。
ジャケット、ここにかけといていいですよ。
まあ三畳あるかなしかの広さでしょうかね、ここに管理人は一日中詰めているわけです。最初見たときはわたし、パチンコ屋の両替所を想いましたよ。ちょっとごちゃごちゃしてますけど、目をつぶってもらって。
で、まず一番最初にやるのが、ここのポタンを押して四桁の暗証番号を入力することなんです。
これは警備端末といって、警備会社とつながってるんです。夜間や休日の管理人が不在のときに、エレベーターの閉じこめ事故やガスや火災、侵入警報なんかが鳴ったときに、すぐに警備員が駆けつけるようになっているので、まずそれを解除してやる、と。
これが、昨日の夜に、警備会社に知らせたんです。二十分足らずで来てくれたんじゃないかな。そして、何でもなく、感知器の誤作動だったって確認して報告書を書いていってくれたみたいです。警備会社でも、ここの管理人室の鍵を持っていますから。
それから、この足下の電気ストーブを付けて、と。もっと寒くなると、このエアコンの暖房も付けます。
わたしは山口の生まれなもんですから、寒がりで、東北の冬はちょっと苦手なんですわ。
夏は夏で、この部屋の中は窓が小さいから蒸して蒸して、それは暑いんです。今年の夏にようやくマンションの理事会の承認もらって付けてもらったんです。
それから、モニターテレビの電源を入れます。
ほら画面が四分割されてるでしょ。このマンションに四台、防犯カメラが設置されとるんですが、その映像がリアルタイムでここに映っとるんです。
画面が十四型で小さいのでわかりにくいかも知れませんが、左上が自転車・バイク置き場と非常階段の入口で、その横が玄関でしょ、それで左下がもう一つある非常階段の入口で、その横がエレベーターの中。
(…この続きは本書にてどうぞ)
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