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小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所
ショウセツ こちらカツシカクカメアリコウエンマエハシュツジョ

原作:秋本 治
著者:大沢 在昌
著者:石田 衣良
著者:今野 敏
著者:柴田 よしき
著者:京極 夏彦
著者:逢坂 剛
著者:東野 圭吾
■ISBNコード: 978-4-08-780466-9
■判型/総ページ数: 四六判ソフト/288ページ+口絵2ページ
■発売年月日: 2007年5月25日
   まえがき

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』という作品は、ぽくにとって「おもちゃ箱」です。
 ギャグあり、メカあり、下町あり、懐かしネタあり、最新ネタあり、人情ありと、箱の中味は多種多様。今日はその中から何を取りだし、 「両さんたち」を使ってどうやって遊ぽうかと毎回、楽しみです。ぼくはもともと一人っ子なので、子供のころから粘土で宇宙人や怪獣を 半日作っていたり、鉛筆と紙さえあれば一日絵を描いて遊んでいたりする、便利な子供でした。
 だから『こち亀』を描くのは、仕事というより遊んでいるという感覚なんです。
 今回、その「おもちゃ箱」を作家の方々に開けてもらいました。大概の遊び方は試したと思っていたけど、まだまだ、遊び方はあるんだと 見せていただきました。「リカちゃん人形遊び」のように、同じ人形でさまざまなお話――プラモ講座や妖怪、拳銃、金儲け、大食い、 同僚、友情、などいろいろと遊び方を考えてもらって、大変感謝しています。なんせ主人公は70年代から使っているおもちゃなので、 GIジョーくらいレアになっていますが、今回の企画で新しい可能性がまだまだあることを再発見してもらえれば、おもちゃ箱の持ち主 として大変嬉しいです。    秋本 治


 目次
幼な馴染み
 大沢在昌
池袋⇔亀有エクスプレス
 石田衣良
キング・タイガー
 今野 敏
一杯の賭け蕎麦-花咲慎一郎、両津勘吉に遭遇す-
 柴田よしき
ぬらりひょんの褌
 京極夏彦
決闘、二対三!の巻
 逢坂 剛
目指せ乱歩賞!
 東野圭吾


幼な馴染み    大沢在昌

 正月明け早々、休みがとれたと晶から連絡があった。
「浅草いってみたいんだよね。初詣でって奴」
 鮫島は絶句した。元旦は過ぎたにせよ、正月の浅草寺、仲見世は、地方からの観先客も多く、人でごったがえす。そんなところに晶が 現われたら、どんな騒ぎになるか。最近は一時よりテレビ出演を控えているらしいが、ファンにはひと目でわかるだろう。
 晶がボーカルをつとめるバンド「フーズ・ハニイ」は昨年の秋、新しいアルバムをリリースした。百万にもう少しで届く、という売り上げ だったらしい。
「何、黙ってんだよ。あたしといっしょじゃ浅草も歩けないっての」
 鮫島の沈黙の理由を悟ったのか、晶は尖った声をだした。
「新宿がまずいっていうから浅草にしたんだ。あたしだってたまには神社仏閣ってところもいきたい」
 確かに新宿ほどは、やくざ、チンピラに晶がからまれる可能性は高くない。
「それともどこだろうと、あたしとじゃ嫌なわけ」
「そうじゃない、そうじゃないが……」
「だったら決まりね。そうだ、前に藪さんがあっちの方の出身だっていってたじゃん。藪さんも誘おうよ。おいしいご飯屋さんとか知ってるかも」
 二人きりよりはましかもしれない。露骨に“デート”という印象ではなくなる。
「だいたいね、考え方が古いんだよ。別にアイドルやってるわけじゃないんだから。男といっしょに歩いてたって、文句いわれる筋合い、 ないっての」
 晶の勢いに押された。このところ、街なかで会う機会がめっきり減っていて、それに対する不満が晶にはたまっているようだ。
「わかった。藪に訊いてみよう」
 しかたなく、鮫島はいった。
「おっしゃ。約束だかんね。ドタキャンしたら殺すよ」
 物騒なことをいって、晶は電話を切った。
 幸い、藪もその日は非番で、予定がなかった。食事をする場所も、天ぷら、牛鍋屋あたりなら心当たりがあるという。三人は待ち合わせて、 浅草寺の仲見世通りに向かった。案の定、人でごったがえし、行列に近い。
 晶も少しは考えたらしく、キャップをま深にかぶって、太いマフラーを首に巻きつけ、ひと目では顔がわからないようないでたちだった。 藪はさすがに白衣こそ着ていないが、よれよれのコートの下にハイネックのセーターと膝のでたスラックスという格好で、会うなり晶に、
「藪さん、あいかわらずだね、お嫁さん早くもらいなよ。もしあてがないなら、あたしがなってあげようか」
 とからかわれた。藪は平然と、
「それいいな。もし晶ちゃんが嫁にきてくれるなら、鑑識なんてつまらん仕事をやめられる」
 と答えた。弾道検査では一流の腕をもつ藪だが、“変人”ぶりが災いして、本庁や科捜研からの誘いもこない。科捜研は、警視庁に おかれた法医や化学の専門集団で、しばしば所属する研究員も藪に知恵を借りにくるほどなのに、だ。
 藪本人は、それをまったく苦にしておらず、新宿署の、一鑑識係にすぎない立場をむしろ楽しんでいる風だった。名前のせいで医者に なるのをあきらめた、とよくいっているが、たぶん実家が裕福なのだろう。
「鑑識やめて、何になるんだ」
 鮫島は訊ねた。
「そうだな。下町の駄菓子屋なんてどうだ」
「あれはおばちゃんがやるもの。おっさんには似合わない」
 晶が首をふった。
「じゃ、ヒモか」
 鮫島がいうと、晶は目を三角にした。
「冗談じゃないよ。あたしが食べさせてもらうんだもん。ヒモは駄目」
「晶ちゃん、元手をだしてくれよ。渋いオモチャ屋でも始めるから」
「渋いオモチャ屋って何」
「金属製のモデルガンとかラジオキット、精巧なプラモデルとかを集めた、大人向きのオモチャ屋」
「それ、大人のオモチャ屋ってこと?」
 晶が吹きだした。鮫島も笑った。
「かなり怪しいな」
「でも藪さんにぴったり、かも」
「あのな」
 藪が抗議しかけた、そのとき、人ごみの前方を歩いていた男が大声をあげた。
「もしもし、気をつけなさい!」
 あたりの人間が足を止める。声をかけられたのは、晴れ着をまとった若い女の二人組だった。 (…この続きは本書にてどうぞ)

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