集英社BOOK NAVI 書籍 試し読み 立ち読み


資本主義はなぜ自壊したのか
「日本」再生への提言
シホンシュギハナゼジカイシタノカ

著者:中谷 巌
■ISBNコード: 978-4-7976-7184-1
■判型/総ページ数: 四六判ハード/336ページ
■発売年月日: 2008年12月15日
ま え が き

 世界経済は大不況の局面に入った。この混乱が収束するにはおそらく数年にもわたる調整が必要になるだろう。
 しかし、もっと本質的な問題がある。グローバル資本主義の本質とは何かという問題である。それを明確に理解しない限り、我々は将来、何度でも今回と同じ間違いをしでかすに違いないからである。
 グローバル資本主義は、世界経済活性化の切り札であると同時に、世界経済の不安定化、所得や富の格差拡大、地球環境破壊など、人間社会にさまざまな「負の効果」をもたらす主犯人でもある。そして、グローバル資本が「自由」を獲得すればするほど、この傾向は助長される。
 二一世紀世界は、グローバル資本という「モンスター」にもっと大きな自由を与えるべきか、それともその行動に一定の歯止めをかけるべきなのか。
 当然のことながら、新自由主義勢力はより大きな「自由」を求める。グローバル資本が自らを増殖させるための最大の栄養源だからである。しかし、さらなる「自由」を手にしたものは、まさにその「自由」によって身を滅ぼす。結局のところ、規律によって制御されない「自由」の拡大は、資本主義そのものを自壊させることになるだろう。
 一時、日本を風靡した「改革なくして成長なし」というスローガンは、財政投融資制度にくさびを打ち込むなど、大きな成果を上げたが、他方、新自由主義の行き過ぎから来る日本社会の劣化をもたらしたように思われる。たとえば、この二〇年間における「貧困率」の急激な上昇は日本社会にさまざまな歪みをもたらした。あるいは、救急難民や異常犯罪の増加もその「負の効果」に入るかもしれない。
「改革」は必要だが、その改革は人間を幸せにできなければ意味がない。人を「孤立」させる改革は改革の名に値しない。
 かつては筆者もその「改革」の一翼を担った経歴を持つ。その意味で本書は自戒の念を込めて書かれた「懺悔の書」でもある。まだ十分な懺悔はできていないかもしれないが、世界の情勢が情勢だけに、黙っていることができなくなった。そこで今回、思い切って私の拙い思いを本書の形で上梓させていただくことにした。是非とも、大方のご叱正をお願いしたいと思う。(〜中略〜)


序章 さらば、「グローバル資本主義」


               変質してしまったアメリカの豊かさ
 ――何か変だ。
 近年、アメリカを訪れるたびに胸をよぎるのはこの感想だった。実際、私がアメリカに留学していた三十数年前のアメリカと現在のアメリカはあまりにも違うのだ。
 あの頃の「よきアメリカ」の姿を今でも私はリアルに思い出すことができる。
 ゆったりした中流階級の人々の家庭生活の清潔さと華やかさ。そして、彼らのおおらかさや心の寛大さ。皿洗い機やカラーテレビ、自家用車、そして当時の貧乏学生の私の目についたのが、子どもたちでさえ惜しげもなく使う大量のティッシュ・ペーパー!
 まさに溢れんばかりの物質的な豊かさだった。当時の日本が貧乏だったこともあって、アメリカがことさらまぶしく見えた。
 それから三十数年。経済成長は持続し、アメリカは経済的にはるかに豊かな社会になったはずなのに、なぜか今日のアメリカにはかつての「豊かさ」や「寛大さ」が感じられないのだ。最近では、文化の香りが残るヨーロッパからアメリカに入ると、アメリカ社会の「粗雑さ」が気になって仕方がない。地域差、個人差はもちろんあるが、基本的に「文化」の香りがしないのだ。いずれにしても、アメリカ社会はどうやら大きな質的変化を遂げたらしいという気持ちを抑えられない。
 この間にアメリカで何か起こったのか。いろいろ調べてみて分かったことのひとつは、この期間にアメリカの所得格差が驚くほど拡大したということだ。アメリカではビル・ゲイツなどのスーパー・リッチ層が数多く輩出した半面、かつてのアメリカを支えていた豊かな中流階級の人々がどこかに「消え去った」のである。
 数字を挙げてみよう。
 驚くべきことに、この数十年の間に、所得上位一パーセントの富裕層の所得合計がアメリカ全体の所得に占めるシェアは八パーセントから何と倍以上の一七パーセント台に急上昇した。これに伴って、アメリカ人の「平均所得」は毎年二パーセント以上も上がった。これだけを見れば、たしかにアメリカは豊かになったはずだ。
 だが、それはあくまでも平均値の話であり、最も所得の高い人から最も貧しい人を一列に並べた場合、ちょうど列の真ん中にいる人たち、すなわち「中位の人の所得」はほとんど上がらなかった。
 つまり、ビル・ゲイツのような、あるいはウォール街を闊歩する金融マンや大会社のCEOなど富裕層の急激な所得上昇がアメリカ全体の「平均所得」を引き上げただけであり、庶民はそのおこぼれにあずかれなかったということである。
 これがかつて、世界中が憧れたアメリカの「豊かな中流家庭」が崩壊した真相であり、私がアメリカに行くたびに「何か変だ」と思わせた犯人だった。

               メルトダウンを起こした? アメリカ経済
 肩で風を切ってウォールストリートを闊歩する「傲慢な」ビジネスマンたちは、最近のサブプライム問題に端を発する金融危機で失速したが、それまでは信じられないほどの高額報酬を得ていた。
 最大手の米国投資銀行、ゴールドマン・サックスの二〇〇七年年次報告によれば、同社従業員の世界平均年俸は金融危機直前、何と七〇〇〇万円にも達したという。 (…この続きは本書にてどうぞ)

booknavi




Copyright(C) 2007 SHUEISHA Inc. All Rights Reserved.