豪華作家陣による、くらもち作品の熱きトリビュートを集めたアンソロジー本『くらもち本～くらもちふさこ公式アンソロジーコミック～』。こちらに収録された、紡木たく×くらもちふさこのスペシャル対談の中で、コミックスには載せきれなかったおしゃべりが「ココハナ 2018年 7月号」に掲載されました。
「別冊マーガレット」に描かれていた頃から戦友かつ親友で、姉妹のように仲が良いおふたり。対談はなんと4時間以上も盛り上ったそうです。
今回S-MANGAでは、「ココハナ」創刊7周年記念号の配信に合わせて、反響の大きかったこちらの対談を3回に分けて特別公開します。
■紡木たく PROFILE
神奈川県出身。1980~90年代『別マ』誌上で一世を風靡。
代表作『ホットロード』『瞬きもせず』など。
■くらもちふさこ PROFILE
東京都出身。1972年『別マ』にてデビュー。
『花に染む』が第21回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞。
くらもちふさこ 紡木は1982年デビューでしょ。（取材陣に） あ、「紡木」っていうのはあだ名です（笑）。その頃、私が何を描いてたのか調べてたんですよ。
紡木たく 『いろはにこんぺいと』とかですよね。
【試し読み】いろはにこんぺいと 1／くらもちふさこ | 集英社コミック公式 S-MANGA
【幼なじみのビミョウな関係】チャコと達は、同じアパートで育った幼なじみ。でも、小3以来ろくに口もきかない状態が続いていた。 高校で同じクラスになった2人だが、達のチャコに対する冷ややかな態度は変わらない。そんなある日、チャコの友人・おリョーちゃんが達に告白！ あっさりOKした達に、チャコは動揺を隠せず…。
くらもち そうそう。当時、担当編集さんが一緒だったんだよね。そういえば、紡木は子どもの頃にお母様からまんが読むのを禁止されてたって言ってたけど、まんが家は反対されなかったの？
紡木 反対はなかったですけど、「まんが読ませなかったよね、何で？」と不思議がってました（笑）。
くらもち そうだろうな、驚いただろうな。
紡木 くらもちさんのご家族はいかがでした？
くらもち 父は、最初はきっと反対だったと思う。言わない人だったけど。
紡木 知子（ともこ）さんも、ですものね。
くらもち うんうん、姉妹ともね。
（編集部注：くらもち先生の妹さんはまんが家の倉持知子（くらもち ともこ）先生）
紡木 すごいDNA…。表現力のある遺伝子ですよね。
くらもち 遺伝子（笑）。紡木は？ お母様が絵心あったんですか？
紡木 母は絵が好きでよく描いてましたけど…でも全然（笑）。「女の子♪」とか言って描いてて、私から見ると味のあるいい絵だなって思うんですけど（笑）。やさしい感じの絵ですね。ふって笑ってしまうような。あ、父がわりと風景を描くのが好きだったみたいです。
くらもち お父様かぁ。
紡木 父の絵を見た時に、「トリミングの仕方が似てるかもしれない」って思いました。兄もやっぱり油絵を描くことが好きみたいです。
くらもち じゃあ、みんな何かしら描かれてるんだね。
紡木 でも、兄は写真ばかり撮ってる人です、すごい写真好きで。
くらもち 絵に共通するものがあるよね、写真てね。水平線をどこにするかっていうのだけでも、その人のセンスが出るものね。
紡木 くらもちさんも写真撮るの、すごくお上手だと思います。インスタとかでやられたら。
くらもち そうなの、かな？（笑）。
紡木 言葉の選択もそうですけれど、絵や写真もやっぱりセンスですよね。
（くらもちふさこ『いろはにこんぺいと』より）
■まんが家達の絵柄を変えた紡木のデビュー
くらもち 紡木って絵は独学だったの？
紡木 独学っていうか、学んだ絵ではないです。
くらもち 紡木の描く男子の体型は現実に近いんだよね。これは絶対、紡木自身もこだわってたと思うんだけど、“足をガーッと開いてしゃがむ”みたいな男子特有の身体の動きを、少女まんがに描いて「格好いい」と感じさせたのは紡木が初めだと思うんですよ。
（紡木たく『ホットロード』より）
紡木 そんなことないですよ。私が初めじゃないです。
くらもち 紡木がそう言うなら、描いてた人はいたのかもしれない。でも、少女まんがで、それを意識させたのは紡木が最初だと思う。みんなが真似し始めたものね。紡木のデビューの前と後でみんなの絵柄が変わったんですよ。私は、そこに気づかなくて出遅れたんだよなぁ。やっぱり、私には昔からの少女まんがが沁みついていたので、いわゆる男性を男っぽく描こうっていう意識があまり無かったのかもしれない。でも、紡木には最初からその感覚があったんだよね。
紡木 私は、初めて読んだまんがが、くらもちさんの『おしゃべり階段』だったので、「すごい」って思いました。男子の仕草の一瞬をコマにする。時間が止まって学校の音がきこえてくる。「ああ、少女まんがって好きな人を描くんだ」って胸がいたくなりました。モノローグとかも、くらもちさんから教わったんです。
【試し読み】おしゃべり階段 1／くらもちふさこ | 集英社コミック公式 S-MANGA
【二人を取り巻く三角関係の行方は!?】中学2年生の森本加南は、天然パーマのクセ毛がコンプレックス。学業も友達も恋愛も上手くいかない加南だが、ケンカ仲間の中山手 線の優しさに助けられ、いつしか線のことが好きになっていた。てんびんばかりのように、二人はバランスがいいと思い込む加南だが、別の高校へ進学した線のそばには、親しそうにする女の子がいた！
くらもち もう、そんなこと言ってもらっちゃったら褒めにくい（笑）。
紡木 全部、全部教えていただいたんです、本当に。
くらもち あー、もう！ こまっちゃくれなんだから（笑）。
（くらもちふさこ『おしゃべり階段』より）
■人物の描き始めは“おでこ”から
紡木 くらもちさんは、ちゃんとデッサン習ってる方なんだろうなって、中2で初めて読んだ時から思ってました。絵が違います。
くらもち そんなことない！でもデッサン習ってた側の人間から言わせてもらうと、本当にデッサンができてるのは紡木のほうなんですよ。デッサンがうまい人は、まず全体を見て、そこから細かい所を整えていくの。紡木の描き方はまさにそう。遠目の小っちゃい身体でも何してるかわかるじゃないですか。外側の輪郭が完全に表現できてるんですよね。だから、小さなモブシーンでも、男子が足で物を蹴り飛ばしてるのがわかる（笑）。
紡木 よく見てくださって…（笑）。
くらもち 人物を描く時はどこから描いてる？
紡木 顔ですかね？ おでこ。全身でもおでこか前髪から描くかな。
くらもち 一緒だわ！
紡木 びっくり！（笑）
くらもち ほんとにどこにも習ってないの？ 車やバイクをあれだけ描けるって才能だよ。
紡木 くらもちさんこそ、車やバイクを緻密に描かれますよね。
くらもち いやいや、ちょっと違うんですよ。私は必要だから仕方なく描くんだけど、紡木は愛情があるんですよ。バイクも、それから風景も。ね、人物と背景、同じ割合で好きでしょ？
紡木 そうそう、好きです（笑）。
くらもち 私はね、人物のほうが強いんですよ。背景は必要だから仕方なく描く。そこが大きく違うんですよね。それまでの少女まんがは1コマの中にわかりやすく描く形が普通で、まぁ今もそうだけど（笑）。紡木は、それを打ち破ってるっていうか、コマを無視した描き方なんですよね。この時間にこれだけのものが全部流れてるよっていうのを、人物も背景もセリフも一緒くたに描くんですよ。
紡木 そんなふうに言っていただけて。
くらもち 『マイ ガーデナー』なんて、紡木ファンにはたまらないよね。紡木だから作れた本ですよねぇ。
【試し読み】マイ ガーデナー／紡木 たく | 集英社コミック公式 S-MANGA
新しい家族のなかで居場所がなくなったと感じている少女・さな。”神様は いるの？””いるな”神さまには、いなくてもいい人なんてひとりもいない。さなを取りまく家族と愛、そして命の再生の物語。
紡木 読んでくださったんですか？
くらもち もちろん買いました！ 当時すごい勢いで売り切れたんですよ。私も急いで買ったつもりだったんだけど、すでに初版じゃなかった。全然急げてなかった（笑）。
紡木 とんでもないことです。ありがとうございます。
『あまちゃん』の陰で『ホットロード』が!?
くらもち 紡木だからできたことと言えば、『ホットロード』の映画も紡木らしさが出ていて良かったよね。主演のふたりも、和希とハルヤマに合っていて素晴らしいコンビだったね。和希役ののんちゃん、素晴らしかった。
（紡木たく『ホットロード』より）
【試し読み】ホットロード 1／紡木たく | 集英社コミック公式 S-MANGA
“夜明けの蒼い道 赤いテイルランプ 去ってゆく細いうしろ姿 もう一度あの頃のあの子たちに逢いたい 逢いたい……” 母親と2人で暮らす14歳の少女・和希。親の愛に恵まれず、行き場のない不満を抱える彼女は、ある日、刹那的に生きる暴走族の少年・ハルヤマと出会う。どこか似たもの同士の2人は、いつしか互いに惹かれあっていき…。
紡木 ほんとに。すごい透明感がありました。
くらもち 登坂（広臣）さんの起用も、先見の明があったよね。
紡木 それはご本人のお力で、私は何も…。
くらもち だって当時、彼らのグループって、まだ誰も役者やってなかったよね。登坂さんが突破口で、それ以降、続いたっていう。どうして、登坂さんだったの？
紡木 雰囲気、です（笑）。テレビのバラエティーにグループで出られてて、まだデビュー1年ぐらいで、普通に話をしているのを見た時に。この雰囲気の中にお任せしましょうって感じるものがあったんです。
くらもち なんか、すごい…。
紡木 のんさんは、映画のキャスティングが決まった後に、『あまちゃん』が決まったんですね。朝ドラって半年間の放送ですよね？ それぐらい長く撮影期間に入られて『あまちゃん』の主人公になりきられるのですから、彼女が大変になってしまうので、「映画はやめましょう」って伝えたのです。
くらもち そんないきさつがあったんだぁ。
紡木 でも、がんばってくださったんです。だから、ご本人達が本当に苦労されて、それが完成して映画になったので…。感謝してます。
くらもち ご本人達も喜んでたと思うな。演じて良かったと思ってますよ、絶対。
紡木 くらもちさんの『天然コケッコー』も映画化されましたよね。たしか、『コーラス』の最初の頃に描かれた作品だと思うんですけど。『別マ』に描いてた頃と同じ高校生を描かれているのに、ちゃんと大人の人向けになってるのがすごいって思ってました。
くらもち 当時『別マ』を離れて大丈夫かなって精神的に不安定な時期でもあったんです。『コーラス』の最初の頃に発表した作品は、自分の中ではちょっと心配でもあったんですけども。嬉しいです。ありがとう。
（くらもちふさこ『天然コケッコー』より）
【試し読み】天然コケッコー 1／くらもち ふさこ | 集英社コミック公式 S-MANGA
そよの住む小さな村に東京から大沢君が転校してきた。都会育ちの彼に村を気に入ってもらおうと、そよ達は気苦労の日々。でも大沢君はいたってマイペースで…。きらめきの田園ライフ！ 解説／聖 千秋
（取材・文／吉田詩子 「ココハナ 2018年7月号」掲載）
『くらもち本～くらもちふさこ公式アンソロジーコミック～』には、さらに読み応えたっぷりのおふたりの対談が収録されています。
おふたりの出会い、紡木たくデビュー秘話、『天然コケッコー』や『ホットロード』の誕生裏話など盛りだくさん！
【試し読み】くらもち本 〜くらもちふさこ公式アンソロジーコミック〜／くらもち ふさこ ほか | 集英社コミック公式 S-MANGA
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10月1日より紡木たく先生の過去作2タイトルの電子版が新たに配信中です。
【試し読み】小さな祈り／紡木たく | 集英社コミック公式 S-MANGA
【大切な存在に会えなくなる「死」とは…】真（まこと）は母と兄・昭（あき）との3人家族。彼女が幼稚園児のとき可愛がっていたウサギが死に、みんなで泣きながらお祈りした。しかしその後、やんちゃ盛りの昭からおまえはうちの子じゃないと言われた真は…。ぶつかりながらも精一杯生きる兄妹物語。【同時収録】隆司永遠
【試し読み】かなしみのまち 1／紡木たく | 集英社コミック公式 S-MANGA
通信隊のある氷取のまちに引っ越してきた祐は、ひとつ年下の男の子・峰と出会います。2人は対照的な家庭環境に育ち、お互いにひかれあいながら小学校時代を過ごしますが……。紡木たく先生が、小学校から中学校へと成長する多感な時期の少年・少女のハートをクリアーに描いた純真ストーリー。
創刊祝7周年！「ココハナ 2019年1月号 電子版」12月1日配信スタート。
くらもちふさこ先生の妄想系スペシャル“絵”ッセイ、大好評連載中！
ココハナ | ココロに花を。毎月28日発売!!
集英社ココハナ（cocohana）ココロに花を。毎月28日発売!!ココハナの今月号を紹介。森本梢子「アシガール」、稚野鳥子「クローバー トレフル」、芦原妃名子「Bread＆Butter ブレッドアンドバター」、槇村さとる「モーメント 永遠の一瞬」、板羽 …